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視点Point of View

恩師 K先生 〜劣等生におきた奇跡〜

 
 K先生と出会った大学2年生のころは,講義と言えば大量の数式をひたすらノートに書き写す日々であった.本来,数学や物理が好きだったはずなのに,いつの間にかつまらなく思えてきた.その内に力学に基礎をおく機械工学そのものに興味が持てなくなってしまった.大学に来ても講義は早々に失礼してグランドへ通う日々が続いた.

 当然,試験をやってもできる訳がない.2年生を終了してみたら,単位はことごとく落としてしまい,取得単位数は学科中,下から数番目という劣等ぶりであった.3年生では,よほど単位を取らない限り進級は難しい.この「落第」という人生初の危機に直面して,のんきな劣等生もようやく焦りを感じ始めた."とにかく,単位を取ることに専念しよう"と心に決めた.単位のためなら教育学部の1年生の女の子たちに混ざってお絵かきもした。土曜日の夕暮れから始まる建設工学科の講義にも出席し,少し角度の違ったところから撮影された2枚の航空写真を立体視する訓練を受けた.お陰で「左右2枚の絵の違いは?」といった間違い探しには瞬時に答えることができるようになった.そんな時,K先生の提案で夏休みに工場実習を行うという特別企画が持ち上がった.参加者には1単位を出すというのである.当然,藁をも掴む思いで夏休みの1ヶ月間を実習に費やすことにした.まさかこの実習がその後の人生に大きな影響を及ぼすとは予想もしていなかったのだが・・・.

 実習先は県内にある大手金属会社であった.そこで磁気ヘッドの加工研究をさせてもらった.熱心に指導して下さったM氏には今も感謝している.実習中は遅くまでデータをまとめたり,ワクワクしながら加工実験をしたり,時間を忘れて課題に集中できた.K先生の講義で加工学を学び興味を抱いていたが,企業で実践的な加工研究を体験するとその面白さが実感できた.「機械工学って案外面白いかも・・・」と素直に思えた.と同時に「こんなままでは,就職したって何の役にも立てないな」と今までの不勉強を恥じた.実習が終わる頃には「何としても単位を取得し,K先生の研究室で加工研究をやるんだ」と心に決めた.さらに展望も開け,大学院に進学し今までの不勉強を取り戻したいという思いが膨らんだ.結局,この思いが支えとなって,留年もせずK先生の研究室に入ることができた.K先生が導いて下さった最初の“奇跡”ではないかと思う.
   

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