原子力関連の研究施設を訪問したときのこと。実験に使って汚染された手袋などは厳重に管理され処分されていました。最終処分は埋蔵で廃棄場が満杯になれば鍵をかけて終了とのこと。しかし、世代を超えてここに何が処分されているのか言い伝えていくのは容易ではなく、200年が限界と伺い背筋が凍る思いがしました。そう言えば、津波被害を受けた東北地方の高台では「ここから下に家を建てるな」と刻まれた石碑が見つかったそうです。命に関わる重大なメッセージでも、時を超えて伝えるのは難しいようです。どうしたらメッセージは伝わるのでしょうか。
奈良時代(1300年前)から続く「浦島太郎」や、室町時代(500年以上前)から続く「雪女」は現代に伝わっています。どうして伝わったのでしょうか。何かそこには秘訣があるのでしょうか。少し考えてみる価値はありそうです。次世代に亘って話を伝えるには、親から子へと伝えなければなりません。それには子守歌と同じように幼子に物語を聞かせてあげるのが効果的です。子供は好奇心の塊です。単純な物語にして興味を持てるようなワクワク、ドキドキする童話にすれば子供の方から”もっと聞かせて! あの話をして!”とせがんで来るはずです。子供の頃の家族との大切な思い出が、今度は自分の子供に話してあげることにつながっていきます。ここで民話の側面も持ってきます。これらは口伝の大事なポイントのように思えます。では「放射能で汚染された手袋はあそこに埋蔵されている。危険だから近づかないように。」「1000年に一度、ここには大津波が来るから家を建ててはいけないよ。」といった類の話はどうでしょうか。大事なメッセージですが子供が聞きたい話ではなく、世代が進むうちに語り部もいなくなり途絶えてしまうのかも知れません。